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大阪地方裁判所 平成7年(わ)600号 判決 1996年2月05日

主たる事務所

大阪府豊中市新千里東町一丁目三番一〇四号

千里住宅センター事業協同組合

右代表者代表理事

野崎實

本籍

大阪府吹田市千里丘中二二七七番地の三

住居

大阪府豊中市新千里西町二丁目一一番六号

協同組合役員及び会社役員

野崎實

昭和五年六月九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官室田源太郎出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人千里住宅センター事業協同組合を罰金六〇〇〇万円に、被告人野崎實を懲役一年八月に処する。

被告人野崎實に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人千里住宅センター事業協同組合(以下「被告組合」という。)は、大阪府豊中市新千里東町一丁目三番一〇四号に主たる事務所を置き、組合員の取り扱う不動産の共同販売及びあっせん、組合員の福利厚生に関する事業等を目的とする事業協同組合(昭和五八年一二月三一日より払込済出資総額は一四〇〇万円)であり、被告人野崎實(以下「被告人」という。)は、被告組合の代表理事として被告組合の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告組合の顧問税理士であった平井龍介並びに被告人から被告組合の法人税確定申告手続を依頼された鈴木彰及び岡澤宏と共謀の上、被告組合の業務に関し、法人税を免れようと考え、別紙(一)修正損益計算書記載のとおり、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告組合の実際の所得金額が一一億〇五八一万三三二三円、課税土地譲渡利益金額が九億〇一五〇万一〇〇〇円で、これに対する法人税額が三億八八一三万九九〇〇円であった(別紙(二)税額計算書参照)にもかかわらず、架空の固定資産売却損を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成五年二月一九日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五六一六万七六五八円、課税土地譲渡利益金額が九億〇一五〇万一〇〇〇円で、これに対する法人税額が一億〇四七三万五五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二億八三四〇万四四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

(注)括弧内の漢数字は証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官調書〔一一五、一一七ないし一二三〕

一  分離前の相被告人平井龍介、同鈴木彰及び同岡澤宏の当公判廷における各供述

一  平井龍介〔一二九ないし一三二〕、鈴木彰〔一三四、一三五〕、岡澤宏〔一三六、一三七〕、吉村敏夫〔一〇三、一〇四〕、鈴木義憲〔一〇二〕、野崎泰秀〔一〇六〕、野崎久義〔一〇八〕、蛭田かおる〔一〇九〕、妙中英幸〔一一〇〕及び仁後修一〔一一一〕の検察官調書

一  査察官調査書〔九四ないし九九〕

一  証明書〔八七〕

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔八九〕

一  法人登記簿謄本〔一一二〕

一  閉鎖された名称・役員欄用紙謄本〔一一三〕

一  土地登記簿謄本〔九〇〕

一  建物登記簿謄本〔九一〕

(法令の適用)

被告人の判示所為は平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年八月に処することとし、情状により旧刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人の判示所為は被告組合の業務に関してなされたものであるから、被告組合については、判示所為につき法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して右の罰金額はその免れた法人税の額に相当する金額以下とし、その金額の範囲内で被告組合を罰金六〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告組合の代表理事である被告人が、鈴木及び岡澤並びに当時被告組合の顧問税理士であった平井と共謀の上、被告組合の平成四年一二月期の法人税確定申告手続に関し、二億八〇〇〇万円余りにものぼる高額の法人税を脱税したものであって、ほ脱率は約七三パーセントに達し、納税義務に著しく反する重大な事案である。

そこで、本件における被告人の関与の態様についてみるに、本件脱税は、被告組合所有の不動産を売却した際に発生した約一二億八〇〇〇万円余りの不動産売却益を圧縮するために、(一)被告人所有の不動産について、これを一旦鈴木に売却した上、鈴木から被告組合に対して時価を大きく上回る約一四億円で売却し、さらに被告組合から被告人の経営するメイワホームズ株式会社に対して約五億円で売却するという一連の売買を仮装することによって、被告組合に架空の固定資産売却損約八億九〇〇〇万円余りを計上し、さらに、(二)鈴木の所持していた倒産状態の会社の印章等を利用して一億円にのぼる架空の開発投資損失を計上するなどの方法により敢行されたものであるところ、被告人は、被告組合の顧問税理士であった平井に対し、前記不動産売却益に伴う税金を安くする方法について相談していたところ、鈴木を紹介され、自ら本件脱税を依頼したのみならず、具体的な脱税方法として右(一)の方法の原案を自ら考え出して平井や鈴木に提案した上、被告人の部下に対して同方法に沿うよう帳簿操作を指示し、右(二)の方法についても、平井や鈴木の提案に対してこれを了承し、結局、本件確定申告書に自ら署名捺印したものであって、以上からすれば、被告人は、本件脱税に積極的に関与し、また、主導的な役割を果たしたものと評価することができる。

また、被告人は、被告組合が前記のような不動産売却益を得たにもかかわらず、右売却益を被告組合や前記メイワホームズ等被告人が経営・統括する不動産関連会社からなるメイワグループの資金繰り等に全て費消したため、右売却益にかかる法人税支払のための資金繰りの目途がつかなくなったことから本件脱税を決意したものであって、動機においても特に同情の余地はない。

以上のとおり、本件脱税の規模、態様や、被告人が本件脱税工作に果たした役割等に照らせば、被告組合及び被告人の刑事責任は重大である。

ところで、本件脱税に関して、被告組合は、本件起訴直後の平成七年三月八日に修正申告を行った上、既にほ脱税額の一部を納付しており、残余部分についても国税局に対して納税計画を呈示して全額納付を誓約している。また、被告組合及び被告人は、鈴木に対し、本件脱税の報酬として三〇〇〇万円を支払ったほか、額面合計一億円の約束手形を交付し、右約束手形については被告人の求めに応じて幾度も支払期日を延伸するうちに本件脱税が摘発され押収されたものの、右支払期日延伸の際にその利息として合計約二五〇〇万円を支払っており、一方、平井に対しても、本件脱税の報酬として一〇〇万円を支払っている。さらに、被告人は事実を素直に認め、本件脱税を真摯に反省していることなど、量刑上被告人に有利な事情も認められる。

そこで、以上の事情を総合して考慮の上、被告組合及び被告人をそれぞれ主文の刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予するのを相当と思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 増田啓祐)

別紙(一)

修正損益計算書

<省略>

別紙(二)

税額計算書

<省略>

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